スイス山里COSMOSNOMADO

アルプスの山を眺め空を見上げながら心に映る風景を綴ります

占星心理学についてあれこれ

今週のお題「自由研究」

古今東西、占いと名のつくものはたくさんあって、常に一定の人気がある。人は自分の運命を知りたがる。「自由研究」のテーマで思い出したのが、昔少し勉強した占星心理学のこと。それを仕事にしたわけではないので、人生の途上で出会った「自由研究」だったのかもしれない。この占星心理学というのは、西洋占星術が土台だが、いわゆる古典的な星占いとは違って、これから起こることを予言したり、吉凶を占ったりするものではない。個人のホロスコープをもとに、その人の性格や気質を見ながら、どうやって内にある可能性を生かせるかを探るものだ。

占星心理学、あるいは心理占星術という場合もあるようだが、それは20世紀になってから提唱されてきたものである。私が習ったのは、スイス人のブルーノ・フーバーが確立したフーバー派の占星心理学で、占星が土台ではあるが、心理学的アプローチに重きをおいたもの。フーバー・メソッドのホロスコープには、真ん中に円があって、そこは空白になっている。たとえば、星と星のアスペクトが180度の場合、二つの星を結ぶ線は円の中心点を通るわけだが、円の中を通さずに、反対側に抜ける。このアスペクトは、古典的占星術では凶の状態になるが、占星心理学ではそうではなくて、互いの星が緊張関係を持っていると考える。緊張関係であれば、それをバネにすることもできるわけだ。よく、星の下の運命などと言われるけれど、その中心円に個の自由意志による可能性があると考えるところに心理学的なものを感じた。つまり、運命に流されるのではなく、自分のホロスコープの星の配置を知った上で、それを生かす道を探っていく。そこが面白いと思った。

占星心理学とのそもそもの縁は、ひょんなことから始まった。きっかけは、そうとう昔の話になる。仕事で知り合ったスイス人の女性から、初めて占星心理カウンセリングという言葉を聞く。映画通訳の仕事で、長い撮影期間中その人と一緒に動くことが多かったので、親しくなって個人的な話もするようになった。彼女は、当時ある悩みを抱えていたらしいが、そのカウンセリングで解決の糸口をもらったと言う。へえ、そういうものがあるのか、と興味をひかれた。

それからしばらくのことである。ギリシャに住んでいる夫の従姉妹を訪ねたところ、彼女がちょうどまた占星術に嵌っているところで、面白いから一回占ってもらいなさいよ、としきりに勧める。アテネ案内も兼ねて、行きつけの占い師のところに連れて行ってくれた。初めての星占い経験だ。その人は今思えば、古典的占星術の占い師さんだった。占いで言われたことは、すべからくいいことだけ覚えていればいい、と思う。ただ、一つだけ頭に残ったことがあって、もう少し深く知りたくなる。その後、紹介してくれる人がいて、間をおいてスイスで二人ほど占星カウンセラーのところを訪ねることになる。一人はまだ勉強中でまあまあの印象だったが、もう一人からはいろいろインスピレーションをもらった。私のホロスコープを見て、自分よりカウンセラーに向いていると言って、親切にも学校をいくつか紹介してくれる。今思えば面白いきっかけなのだが、もっと知りたいという興味が高まっていたので、コースを取ってみることにした。

占星心理学のカウンセリングでは、まずクライアントの誕生ホロスコープを作ることが基本になる。そのためには、正確な誕生時間と場所の緯度経度が必要だ。誕生の瞬間に、天の星の配置はどうなっていたのか。時間と場所が違えば、同じ星座の人でも、全く同じホロスコープということはない。地球上のある時間ある場所に生まれた個人を中心点として、360度の円に誕生時の12の星座と10の天体(太陽と月と水・金・火・木・土・天・海・冥の惑星)の位置が投影される。占星術の星座の順番は、占星術の黎明期に春分点があった牡羊座宮から始まって、魚座宮で終わる。何座生まれというのは、生まれた時に太陽が入っていた星座宮(サイン)による。けれども歳差運動で、現在は春分点が実際には魚座にあるので、牡羊座宮は、実際は魚座に太陽がある時期から始まるということになる。つまり、天文上の星座と占星星座にはズレがあるという認識が必要だ。春分点の移動周期は約2000年で、今からおよそ2000年前のキリスト誕生の頃から、魚座に移ったのだという。

太陽だけではない。10の天体の誕生時の位置も、その人の性質に影響を及ぼしていると考える。それぞれの天体には、それぞれ属性が与えられているが、星座宮には、これまたその属性があるので、それがどの星座宮に入っているかによって、働きが違う。また、生まれた時に東の地平線にあった星座は、上昇宮と呼ばれる。太陽のある星座宮がその人の内側にある本質的傾向を表すのに対して、上昇宮はその人の表面上の傾向を表す。上昇宮が入っている、円の左の起点から反時計回りに、年齢点が12のハウスを通過していくが、そのハウスがどの星座宮にあるか、また、そこにどんな星が入っているかも、その人を見る上で大事なものになる。占星学では予言はしないが、年齢点の通過過程を見れば、抽象的にはいつ頃どんなことがあるかはわかることになる。その他、天頂にある星がその人の目指すものを表すとか、星同士のアスペクトの意味とか、また、それぞれの星座宮も、よく知られている火・地・風・水の4グループ分けだけでなく、活動・安定・変化の3つのグループ分けなど、いろいろと約束事を学ぶ必要がある。

全過程を終えたあと、ディプロムを取って占星心理カウンセラーになる道もある。もともと勧められてコースを始めた私だったが、その道は選ばなかった。練習に、生徒同士で相手を診断する時間もあって、星座宮や星や様々な事柄を組み合わせてその人を見るのは面白かった。パズルのように頭を使う。直観も働かせながらの作業はとても興味深いのだが、仕事にするまでの信念を持つことはできなかった。前提となる決まりごとへのなぜ?はその一つだ。ただ、悩みがあるときに、それを解決する糸口になるということは確かだとは思う。それは、なぜか。ある友達が言っていたが、2時間もこんなに自分のことだけをテーマにして話したことはないと。これはひとつの鍵だと思う。人が抱える問題は、理屈だけでは解決できないことも多い。ゼロから話を始めて本音が出てくるまでには、かなりの時間がかかるだろう。そんな時、ホロスコープという、ある約束事を基にした自分についての情報を前にして、納得や反発を持ちながら考えることは、近道ではある。どんなカウンセリングもそうであるように、本人の気づきを引き出すことが重要だ。一つ大事なことは、いいカウンセラーを選ぶこと。占星は、証明が基本の科学ではなくて、いわばアートである。占星学の約束事を学んだだけでは、いいカウンセリングはできない。鑑定する人の技と洞察力がものを言う。そういう意味でも、アートである。

 

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