スイス山里COSMOSNOMADO

アルプスの山を眺め空を見上げながら心に映る風景を綴ります

チューリッヒ散策

今週のお題「好きな街」

今、一番好きな街は?と聞かれたら、たぶんチューリッヒと答えるだろう。旅行で素敵な街を訪ねると、いつも「ああ、また来たいなあ」と思う。でも、たいていは二度と訪れることはない。だが、チューリッヒは違う。数十年来よく知っている街。住んでいるわけではないが、私にとって身近な街だ。身近でありながら、今でも魅力のある街だと思う。

その昔、たくさん日本人観光客のグループがスイスを訪れていた時期があった。だが、たいていは、チューリッヒは空港に着いてから直行で、バスでざっと回ってから土産物店に立ち寄り、泊まらずにベルナーオーバーランド方面に向かうコースが多かった。あるいは、チューリッヒかルツェルンに一泊して、翌日はユングフラウヨッホを観光するコース。いずれも、じっくりとチューリッヒを散策する機会がない。

チューリッヒを訪れる人には、ぜひ旧市街を散策してほしい。リマット側を挟んで、左右に石畳の旧市街が広がっている。左岸には、有名なシャガールのステンドグラスがあるフラウミュンスター、ヨーロッパ一大きい時計盤を持つサンクト・ペーター教会、右岸には、二つの塔が聳えるグロスミュンスター。この三つの教会を写真に収めるには、一番湖よりの橋の上に立つといい。湖を背にしてカメラを構えると、左手にフラウミュンスター、その後ろにサンクト・ペーター教会の時計盤、右手にはグロスミュンスターの二つの塔がバランス良く収まる。

私のお勧めのコースは、チューリッヒ中央駅から始まる。私は、スイスの大きな街の駅の中では、このチューリッヒ駅が一番好きだ。中央駅は、地上部分が終着駅になっていて、3番線から17線まである。構内のホールは天井がとても高く広々としている。これが、他の駅と比べて違うところだ。12月にはここにクリスマスマーケットが出るし、その他いろいろなイベント会場としても使われる場所だ。地下には、中央発駅ウトリベルク(近郊の小高い山)行き戻りの1番線と2番線、それと、通過線路が4本通っている。地下のショッピングモールも広くなった。

さて、中央駅を背にすると、目抜き通りのバーンホーフシュトラッセが見える。チューリッヒ湖まで続いているショッピング通りだ。その変遷に触れると長くなるが、以前は世界一洒落たショーウィンドーが並ぶ通りと言われていた。今は、駅の近くは比較的安いものを売る店が並ぶようになって、高級店はもう少し先に行ってからになる。もちろん、時計店は多い。大銀行やサヴォイホテルなどが面しているパラデ広場まで10分ほど歩いて、左に折れるとリマット川沿いにフラウミュンスターがある。そこから橋を渡って、グロスミュンスターに行く階段を上る。目的によっていろいろあるが、路地の散策をするなら、グロスミュンスターから右岸の石畳の道、ニーダードルフ通りを駅の方向に向かって歩くのがいい。いろいろなレストランや居酒屋さんも並んでいる。ちょっと路地を入れば、小さくて素敵なブティックがあったり、思いがけない発見がある。左岸の川沿いの石畳の道も素敵だ。リンデンホーフの丘から眺める対岸の家並みと遠くの風景も美しい。

チューリッヒは、文化の街でもある。クンストハウス、チューリッヒ市美術館のことだが、ここには、素晴らしい作品がたくさん展示されている。印象派の絵も豊富だ。また、リートベルク美術館という有名な東洋美術館がある。日本の美術品も多い。そして、日本からの国宝級の彫刻や絵画を招聘した展覧会が多く開かれている。たとえば、「禅の美術展」「能面・能装束展」(その昔ヨーロッパに伝わった富山の加賀家由来の能面が寄贈され展示)「等伯展」(国宝の松林図屏風など展示)「観音展」などなど。この美術館は、リーターパークという大きな公園の中にある。チューリッヒには緑がたくさんある。湖沿いもずうっと公園になっていて、人々の憩いの場だ。また、古今の文化人が多く滞在した街で、ゲーテが訪れたレストランや、レーニンが亡命していた時に間借りしていた家には、外壁に表示が出ている。スイス人の作家ゴットフリート・ケラーが住んでいた家も旧市街にある。リヒャルト・ワーグナーやジェームス・ジョイスもチューリッヒに住んだことがあるし、その他数え上げればたくさんの人だ。

チューリッヒは、スイスで一番大きい商業都市である。人口はおよそ40万人で、日本で言えば四国の高松市くらいだろうか。街にはくまなくトラム(市電)が走っているが、旧市街だけならゆっくり歩いて回れる。東京育ちの私は、初めて来た時には小さく感じたものだが、この街にはいろいろなエッセンスがギュッと詰まっていて面白い。

 

リーターパークとリートベルク美術館