スイス山里COSMOSNOMADO

アルプスの山を眺め空を見上げながら心に映る風景を綴ります

雪の山越えと夏の荒れ地越え

今週のお題「人生最大のピンチ」

ピンチと言ってもいろいろある。精神的なものだったり、生活上のことだったり。長く生きていれば、誰しも振り返って精神的な面で行き詰まった時もあるだろうし、家族の問題でキツかったこともあるだろう。

そういう時もあったが、今回の「お題」を見て、まずは旅先でのピンチのことを思い出した。それも2回、そして同じく車でのこと。もうずいぶんと昔のことになる。いずれも休暇中の出来事だ。

あれは、まだこちらに来たばかりの頃、南チロルにある夫の友人の家を訪ねた時のことだった。イースターの頃だったと思う。イースターは、その年によって3月の終わりだったり4月も半ばだったりする。夫と友人たちはスキーをしていたから、3月の終わりか4月の初めだったかもしれない。ちなみに、私がスキーを始めたのはそのずっと後になる。細かいことはもう覚えていないが、とにかく楽しい数日を過ごして、帰途に着いた。フリュエラ峠を越えてダボスに降りるルートを取った。晴天で、青空が広がっていた。ところが、峠を登っていくと急に雪が降ってきた。車の向きを変えることができないので戻るに戻れず、さてどうしたものか。夫の運転技術には全幅の信頼を置いていたが、それでも先がよく見えないほど吹雪いてきた。チェーンを巻くしかない。私は当時まだ運転ができなかった。東京育ちでその必要もなかったし、車に興味もなかった。当然知識もない。だが、私がタイヤの位置を見定めてチェーンを敷くしかない。その上を夫がバックする。やり直しがきかない一発勝負である。吹雪の中、かじかんだ手にチェーンを持って必死で雪の上に敷く。夫が慎重にバックしてくる。うまくいった!タイヤを乗せた後は夫と一緒にチェーンを巻きつけた。正直あの時は、うまくいかなかったらこれで一巻の終わりだ、と一瞬思った。幸い、その後は先がよく見えないながらも、夫の抜群の運転で無事に下に降りることができた。

もう一回は、グランカナリアでのこと。こちらに来て3年目に、初めての海辺の休暇に出かけた。日本にいた頃、大滝詠一がけっこう好きで、彼が歌っていた「カナリア諸島にて」のカナリアン・アイランドというリフレインを思い出しながら、少し感慨深い旅だった。何日目かのこと、レンタカーを借りて島のドライブに出かけることにした。地図を見てルートを決める。車は普通のフィアットだ。ところが、進んでいくと、やがて石ころだらけの道になって、行き交う車はジープばかり。先の経験のように、夫は運転が上手いので何とか走ったが、荒れ地をゆっくり走るので予想よりガソリンを食う。ガソリンスタンドがありそうな集落もない。少し下りの道はギアをゼロにして節約する。何とか町まで持たせたが、携帯電話もない時代、誰もいない砂漠のようなところでガソリンがなくなったらと思うと、肝を冷やした。

あの時は自分が運転できなかったので、すべては夫の腕にかかっていた。その後、必要に迫られてこの私も運転免許を取る。ウチの車は、冬の坂道のことを考えて四輪駆動だし、オートマではない。初めは、坂道発進などギアチェンジに苦労したが、今ではかえってそれが面白い。意外に運転が好きなことも発見した。ただし、スピードが苦手なので、高速道路は走らない。こちらのアウトバーンは、時速120キロである。私の限界はせいぜい100キロだ。