スイス山里COSMOSNOMADO

アルプスの山を眺め空を見上げながら心に映る風景を綴ります

この春は映画三昧

この数週間は映画三昧だった。と言っても、映画館で見たのは一本だけで、あとは飛行機の中、オンラインでのレンタル、ネットフリックスである。

まず、映画館で観たのが、ミシェル・ヨー主演の「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」だ。この映画は、スイスではすでに昨年公開されていたが、日本ではこの春だった。実はこの映画、息子から観てみてと言われていたのだ。彼の説明によると、並行世界を描いていて、人は色々な人生の可能性を持っているというメッセージを伝えているのだという。なるほど。話は面白そうだ。だが、現在のアメリカ英語はわかりにくいし、いちいちドイツ語字幕を読みながら観るのも手間だ。それで、帰省中にちょうど日本にいた息子に誘われて観に行った。まあ、パート1のカンフーが続くシーンでは、私の感覚からはあまりに暴力的で、これ以上続いたら耐えられないなと思った。ちょうどその時、場面が一転してパート2に入る。前とは打って変わって、砂漠の丘で下を見渡しながら会話をする二つの石(意識体の象徴だろう)の静寂の場面になる。哲学的な内容の会話が続く。音声なしで字幕のみだ。ああ、やっと一息つけたと安堵。なるほどね。深読みすれば、この境地に達するまでの人類の野蛮を描いていたのかなと解釈。それにしても、そこまでしなければ、この境地を描けないのかなとの思いも湧く。そして、パート3で、愛の世界観に持っていっている。なるほどね。こういう順番でないと、今の人類の意識レベルでは理解が難しいのか。ふむふむ。ま、カンフーシーンを思う存分見せたいというのもあったのかもしれない。アカデミー賞の主要部門6冠を制覇したということだが、主演女優賞と助演男優賞以外は、なるほどそうですか、というのが私の反応だ。主演のミシェル・ヨーは素晴らしかった。彼女無くしては、もっとつまらない映画になっていただろう。いい顔をしている。綺麗な女優さんだが、それを超えて「いい顔」という表現がぴったりだ。セリフなしでも、顔で内面を表現できる女優さんだ。それから、夫役のキー・ホイ・クアンもよかった。やはり、この人無しではさらにつまらない映画になっていただろうという感想である。私の評価を言わせてもらえば、この二人のキャスティングが映画成功の鍵だったということ。脚本賞と監督賞、作品賞についてはあまり納得はしないが、こういう賞には時代の流れや、業界の思惑もあるだろうし、私にはなんともわからない世界ではある。

次は、飛行機の中で見た3本の映画。The Big Short、日本題は「マネーショート、華麗なる大逆転」と云うらしい。これは、なかなか面白かった。2015年の作品で、2008年に起きたリーマン・ショック前後の数人の金融マンたちの実話を元に作られた話だそうだ。アメリカのサブプライム住宅ローンの破綻が引き起こした世界的な金融恐慌の経緯がわかる映画である。銀行が堅実なビジネスを逸脱して、詐欺的に金が金を生み出す仕組みを作っていった様子が描かれている。あのブラット・ピットが製作に関わっていて、重要な役で出演もしていた。座席前のスクリーン選択でたまたま選んだ映画だったが、観てよかった。

2本目は「いつか晴れた日に」である。これも面白かった。ジェイン・オースティンの小説Sense and Sensibilityの映画化作品で、1995年のもの。エマ・トンプソンとケイト・ウィンスレットが主役の姉妹を演じている。二人とも上手い。最初、この妹役は誰だったろう、知っている女優さんだが、と思っているうちにハタと気づいた。そうだ、タイタニックのあの女優さんだと。ヒュー・ブラントも甘い顔と雰囲気で出ていたが、彼と並ぶと、エマ・トンプソンが大人に見える。分別のある姉役を好演していて、「日の名残り」でも感じた演技派女優の確かさがあった。

3本目は、メグ・ライアン主演の「ニューヨークの恋人」だ。2001年の作品だが、911の前に作られたのだろう。14時間の飛行は長い。夜間飛行ではないので、眠くもならない。さて、次は何を観ようかなと探していて何となくクリックしたら、冒頭から往年のグレゴリー・ペックを彷彿とさせる魅力的な俳優さんが出ていて、ずっと観続けてしまった。現代ニューヨークにタイムトラベルしてきた貴族の青年がキャリアウーマンと恋に落ちると云うストーリーは、いかにも作り物的で陳腐なのだが、高貴な青年役のヒュー・ジャックマンに見惚れて最後まで観てしまった。彼に比べて、主役のメグ・ライアンは今ひとつカリスマ性がなかった。以前にトム・ハンクスと共演した時は光っていたが。演技派のエマ・トンプソンと比べては気の毒だが、キュートな可愛さで売っていた女優さんだから、旬の季節というものがあったのかもしれない。

こちらに戻って来てからも、一度映画付いてしまったせいか、イースター休暇に何本か立て続けに映画鑑賞。それについては、また続きを書きたいと思う。