スイス山里COSMOSNOMADO

紅葉世代の異文化通信

スイスで味合う日本の夏祭りと盆踊り

今週のお題「まつり」

そう、夏は祭りの季節だ。こちらでもいろいろなお祭りが開かれる。チューリッヒ近辺で言えば、30年ほど前から始まったストリートパレードが、先週末に行われた。これはテクノ音楽のパレードで、いろいろ奇抜な衣装を纏い化粧を凝らした人々がトラックのような大きな車の上に乗って歌い踊りながら行進する。大変な人出で、遠方や国外からも人が集まってホテルなどは稼ぎ時にもなる。また、チューリッヒ湖畔の古城のある町ラッペルスヴィルでも、先週末はお祭りが開かれ、恒例の花火が上がった。それから、移動遊園地が各地にやってきて、屋台や夜店も出るし、家族連れだけでなく、けっこう10代の若者たちが集まる場所にもなっているみたいだ。私はと言えば、夏の夜のあの独特の開放感は好きなのだが、ちょっと賑やかすぎて最近は行かなくなった。やっぱり日本の縁日の雰囲気とは違うし。

日本の夏の風物詩はお盆だ。ご先祖様が帰って来る日。都会に出た者も故郷に帰って来て、親類縁者で集う。今もそうだろうか。そして、お盆と言えば盆踊り。あの太鼓の音が懐かしい。太鼓には、人を引き寄せて心を高揚させる不思議な力がある。櫓を真ん中に、皆んなが浴衣を着て輪になって踊る楽しさ。各地にそれぞれの盆踊りがある。

ここスイスでは、近年たくさんの日本祭りが開かれるようになった。各地に住む日本人の有志が中心になって開催していて、スイス人の訪問者も多い。この夏も、知っている限りでも各地で5つほど開かれる。焼きそばやたこ焼きや焼き鳥など、日本のお祭りのような屋台が出て、スイス人たちも楽しんでいる。思えば、昔に比べて日本もずいぶんとポピュラーになったものだ。私たち盆踊りグループも呼ばれることがある。伝統芸能愛好会と名付けているが、主にメンバーがそれぞれの出身地から持って来た盆踊りを踊る会である。立ち上げたのは、かれこれ28年前。ある美術館の大きな展覧会に伴うお祭りで、こちらのアジア人のコミュニティーに自国の芸能披露をお願いした。けれども、チベットやタイやフィリピンや韓国などには、それぞれ趣味の芸能グループがあったが、当時の日本人の間にはまだなかった。庶民が歌い踊る伝統芸能と言えば盆踊り。そこで在留邦人に呼びかけて作ったという経緯がある。今ではこちらでも、日本人の三味線グループやスイス人の太鼓グループがあったりして、こういったパフォーマンスも浸透して来ているが、あの頃は太鼓奏者も民謡の歌い手もいなかった。何と言っても今のような日本ブームの前のことだ。太鼓を日本人の若手ティンパニストにお願いして練習してもらったり、歌が上手いという噂の人や踊りが好きという人を電話を掛けまくって探したことも、今となっては懐かしい思い出だ。そのお祭り一回のために立ち上げたものが、大変評判が良くてその後も日本関係のイベントなどに呼ばれたりして、メンバーは多少入れ替わりながらも今も続いている。スイスに居れば、日本の出身地は様々でも、皆んな故郷は日本である。外国暮らしで時々恋しくなる日本的な雰囲気。だからこそゆるい繋がりで練習談笑するこの会は、ずっと続いているのだろう。6月の終わりには、チューリッヒのスイス民俗衣装祭に招かれて、NZZ紙にも紹介された。この夏もこれから2回ほど日本祭りに呼ばれているが、いつも最後には訪れたスイス人にも呼びかけて、皆んなで輪になって踊るのが常である。踊りに言葉はいらない。誰でも一緒に皆んなで踊れる盆踊りは、国を超えて人を繋げる。