スイス山里COSMOSNOMADO

紅葉世代の異文化通信

スイス土産の思い出

今週のお題「手土産」

お土産屋さんのクリスマスウインドウ

数十年前の夏のこと。何人かの日本人のお友達と一緒に、里帰りに持っていくお土産の話で盛り上がっていた。ヨーロッパは、今に比べればまだ遠くて「舶来品」などという言葉もうっすら残っていた頃。円高が始まったのは、たしかプラザ合意からだった。日本のバブルがまだ始まる前のこと。何を買って行こうかしら、何が喜ばれるかしら、などなど皆んな久しぶりの故郷に想いを馳せながらウキウキソワソワ。航空運賃も高かったし、便数も少なかったから、やっぱり帰国は一大イベントだった。

スイス土産といえば、なんといってもチョコレートが人気。でも、夏は溶けるのが心配で、何か代わりのものがいいかな、と思案したり。カランダッシュのペンとか、スイスアーミーナイフ、それから、しっかりした布巾もいいお土産になった。刺繍のハンカチも綺麗なのだが、値が張る割には日本ではあまり高く見てもらえない品。スイスは物価が高い上に、円高に振れていった時期だったから。

毎回、トランクのスペースの半分はお土産でいっぱいになった。チョコレートは嵩張るけれど、皆に喜んでもらえた。今でこそリンツの支店が出来て、日本でも買えるようになったが、当時はスイスのチョコレートは高級感があった。スイスと言えばチョコレート、たしかに一味違って美味しい。荷物にはなっても、久しぶりに会う人たちにはそれぞれにお土産を渡したい。だから、お土産は何人分にもなる。今度こそはあまり持って行くまいと思っても、これは日本にはないから食べてもらいたい、あれも珍しいから上げたいと、結果的にはいつもトランク半分はお土産になってしまう。

外国に出る人の数が増えれば、海外の物もあまり珍しくはなくなってくる。バブルの頃からだったろうか、スーパーでスイスチーズを見かけるようにもなった。デパートにも輸入品のブランドが溢れるようになった。ただし、スイスのワインは見かけない。というのは、そもそもスイスワインの輸出量は少ないからだ。生産されたワインは、ほとんど国内で消費される。スイス人はワイン好きなので、生産量が輸出に回らないと聞いたことがある。レマン湖地方はワインの宝庫、特にヴォー州に広がるワイン畑は世界遺産になっていて有名だ。

そして、スイスには「アペロ文化」がある。アペロというのは、ドイツ語圏で使われている表現で、言ってみればアペリティフなのだが、夕方の集まりなどで、食事ではないけれど摘みを食べながらワインを楽しむというもの。そう言えば、夕方だけでもないか。たとえば、11時オープンのイベントなどでもワインが出る。そんな時は、たいていスパークリングワインか白ワイン。白を飲まない人のために赤も用意されていることもあるが、午前中のアペロには白だけ出されることが多い。もちろん、飲まない人のためには、水やジュースもある。食事に準ずるアペロ・リーシュというのも好まれる。これは、たいてい立食のパーティーだ。ビュッフェスタイルでさまざまな食べ物が供される。そして、欠かせないのがもちろんワイン。この形式の利点は、いろいろな人と交流できること。

いつ頃までだったか、クリスマスの時期になると、レマン湖畔のワイン業者さんから、日本へ送るワインの注文書が届いていた。ワインはなかなか持って行けないので、お世話になった人にはお礼に送ったりもしていたものだ。そう言えば、チョコレートも送っていたっけ。リンツチョコが日本で手に入るようになる前のことである。けれども、円安が続くと値段が上がるし、また海外の物に手が届きにくい時代が来るのかもしれない。