今週のお題「読んでよかった・書いてよかった2024」
今年読んだ本は多々あるわけだが、最近読んだので記憶に新しく、且つ面白かった本を2冊選んでみた。
ひとつは、ユヴァル・ノア・ハラリの「ホモ・デウス」である。この本は、コロナ前の2016年に書かれた。彼は、その時点では、あの未曾有のパンデミックが起こること、そして世界がこれほど急速に変化するとまでは予想していなかったようだ。世界的なベストセラーとなった出世作「サピエンス」は、人類発生前の地球誕生の頃にまでも遡って、俯瞰的に人類史を描いた力作である。そして、人類の一種族であったサピエンスが、なぜ他の人類と違って、全地球に君臨していったのかから歴史を紐解いていく。他の人類にはない、物語を作って共通のことを信じ団結する能力が認知革命を引き起こし、サピエンスが繁栄していったと語る。第二作は、高度に発展していったサピエンスが、ついにAIを作り出し、やがてはサピエンスに変わって世界を支配する可能性について語られる。現在のAI技術の発展振りは、予想もつかない速さで進んでいる。発展の結果、それが人類と共存できるのか、あるいは取って代わられてしまうのかの深い考察や議論なしの技術研究には、危うさを感じる。現在急速に進行しているIT革命は、今まで人類が経験してきた農業革命や印刷技術革命、産業革命とは、根本的に質の違う革命なのだ。
もうひとつは、佐々木実氏の「市場と権力、改革に憑かれた経済学者の肖像」である。この経済学者とは、竹中平蔵という人物のことだ。彼は、構造改革という名のもとに、日本社会を根本から変えてしまった。それが、今の日本の凋落の始まりだ。この人が登場してくるまでは、日本の雇用制度は安定していたし、今ほどの格差はなかった。何のための改革だったのか。なぜそれなりに機能していた郵政を民営化しなければならなかったのか。これは、小泉純一郎元首相の執念と竹中平蔵氏の経済思想が一致したものだが、このいわゆる改革は、日本国民のためではなくて、外資に道を開くためだったのではないか。この本を読み進めると、その実態が見えてくる。竹中平蔵という人は、日本の利益のためではなくて、アメリカのために行動していたように見える。そうさせた原点は何なのか。この本は、私が2000年頃からずっと感じていた違和感を、たくさんの参考文献を元に検証してくれた。一人の人間の中に芽生えた意識が、一国の在り方をここまで変えることができるものなのか。その人間が高潔な人物なら、いい方向に行くこともあるだろう。だが、この本を読んで見えてくる人物像は、自己の利益優先、一言でいえば「節操がない」に尽きる。彼には彼なりに信じるものがあったのだろう。だが、それは社会のためになるものだったのだろうか。この本は、第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第12回新潮ドキュメント賞を受賞しているという。丁寧な取材を重ねた読み応えのある本だった。
次の本へと広がる一冊がある。この2冊はそんな本だった。今度はハラリ氏の最新刊「Nexus」を読んでみるつもり。それから、佐々木氏の本の中で紹介されていた宇沢弘文「資本主義と闘った男、宇沢弘文と経済学の世界」も読んでみたい。