できるだけ毎日、新聞を読むようにしている。私が住んでいる地域のローカル紙だが、新聞を開いて外国欄を見ると、毎日のようにアメリカの記事が目に入ってくる。ドナルド・トランプという人物の言動が、案の定世界を動揺させているようだ。たぶん何事も深く考えずに感情のままに発言し、自分の思うままに物事を動かしたい人物。そういう人間がアメリカの大統領という座に就いてしまった。今回は側近をイエスマンで固めたから、まさに裸の王様状態で暴走は止まらないだろう。また、イーロン・マスクもトランプの後ろ盾を得て、やりたい放題のようだ。無駄を省くと言って、連邦機関で働いている人たちの大幅な人員削減を始めている。こういう人間は、自分のことは重要な人物だと思っているのだろう。絶対に無駄な側には入らないと。いったい無駄とは何なのだろうか。無駄と言って省かれた人たちの人生を考えたことがあるのだろうか。たぶんないだろう。誤った効率化の行き着く果ては、情のない人間たちが闊歩する世界。差別が当たり前になる社会。また、彼は自分が買い取ったSNSを使ってドイツの選挙にまで介入しようとしている。極右政党への賛同表明だ。怖いのは、お金で選挙を買った末に間接的に権力を得て、それをほしいままにしようとしていること。札束で頬を張るという言葉があるが、いかにもそれを見る思いがする。品のないことである。
意識しているかどうかは別として、彼らがやろうとしていることの行き着く先は、ジョージ・オーウェルの「1984」の世界ではないか。特に、フェイクニュースを流すことをチェックしなくなれば、本当は何が起こりその真実がどこにあるのかがわからなくなる。大声で言い張った者勝ちだ。トランプ政権はまさに近代社会が築いてきた常識を超えた。国が法(のり)を超えて独裁に走れば「1984」の中の真理省が始動する。あの世界では、為政者の言説のみが真実とされ、それに合わせて公文書記録が日々書き換えられるのだ。
トランプ大統領は、地球環境が現在どうなっているのかも意に介さないようだ。パリ協定も脱退し旧態依然の資源依存に戻ろうとしている。また、ガザをリビエラ化するという発言に中東問題の専門家は、彼が中東の歴史をよく知らないのではないかとの疑問を呈していた。中東だけでなく世界の歴史もよく知らないのではという疑問も湧いてしまう。いわゆる一般教養はどうなのだろう。この人はテレビの世界でも活躍していたらしいから、それらしく大衆受けする術には長けているのだろう。でも、テレビは見かけの世界。閣僚や報道官を選ぶときに見かけも重視したという話も聞いた。
この人たちやトランプに跪くテック企業の経営者たちを見ていると、まるで漫画を映像化した世界にいるような幻惑感を持つ。生身の人間の生活を知らないというか。あなたたちの日々の暮らしを支える品々は誰が作っているのか。たとえば、綿棒やトイレットペーパーを生産する中小企業を経営している人たち、あなたたちが使っている下水道の整備をしてくれる人たち、あなたたちが出したゴミを集めて焼却してくれる人たち、街を掃除してくれる清掃員の人たち、道路工事をしてくれる人たち。そもそも、あなたたちが食べる物を作ってくれる人たち、食卓まで運ぶ物流ラインで働いている人たち。だいたい漫画じゃなくて生身の一人の人間がこの社会で生活していくためにはどれだけの人たちのおかげを被っていることか。それを忘れたくない。
今此処に生身で存在する物に触れて感じることの大切さ。アナログ時代を知っている大人は子供にその知恵を引き継いで行きたいものだが、このインターネットの時代にはそれが一層難しくなっている。人類が代々続いてきたのは、知恵を順繰りに繋いできたから。歴史を伝えていくことは大事なことである。昔の話を聞きたいと言う若者のことを以前書いたことがあるので、そのリンクを貼っておこうと思う。
https://cosmosnomado.hatenablog.com/entry/2021/03/28/091550