スイス山里COSMOSNOMADO

紅葉世代の異文化通信

ドラマも時代と共に

今週のお題「ドラマ」

向田邦子脚本の「阿修羅のごとく」というドラマがある。1979年から80年にかけてNHKで放映された。その後、2003年に森田芳光監督で映画化されている。NHKのドラマを観たかどうかは定かではないのだが、映画の方は観ている。とても面白かった。今は、ネットフリックスで是枝裕和監督のシリーズを流しているようだ。

向田邦子さんは昭和を代表するテレビドラマの脚本家である。昭和4年、1929年生まれで家族の物語を多く描いた。残念ながら1981年に台湾での飛行機事故で亡くなった。今思えば、まだ51歳の若さだった。バブルの時代を生きていたら、どんなドラマを書いていたのかと考える。もう一人の代表的脚本家は、橋田壽賀子さん。こちらは、向田さんより4歳ほど年上だが、長生きをされて2021年に亡くなった。「おしん」が有名だが、なんと私は観ていないのだ。日本にいなかったのかもしれない。この「おしん」は外国でも放映されたらしく、最近イラン人の隣人との立ち話で、その人がその昔イランで観たと言っていて驚いた。向田さんも橋田さんもホームドラマを書いた作家である。そう、私が日本にいた頃はホームドラマが全盛だった。頑固親父が出てきたり、嫁と姑の問題があったり、兄弟のいろいろだったり。でも、家族っていいねという物語の基本線があったように思う。そして、昭和が終わったのが1989年のお正月。日本はまだバブルだったのだろうか。チューリッヒには、大小合わせて何十社もの銀行や証券会社が支店を出していた。

スイスの我が家には、1990年代の初め頃まではビデオ機器がなかった。実家から日本のドラマをビデオに撮って送ってもらっていたお友達の間では「東京ラブストリー」が話題になっていたけれど、観ていない。だいたいあの当時は、日本の情報もなかなか入らなかったから、何が流行っているのかも里帰りするまではわからなかった。やっとヨーロッパと日本形式の両方対応ビデオデッキを買って、録画ビデオをお友達に貸してもらった頃は、いわゆるトレンディドラマがほとんどだった。およそ10年近い隙間があると、時代の変化を如実に感じる。ドラマに家族が出てこないのだ。だいたい親は田舎にいる電話の向こうの人。主流は恋人たちである。この「恋人」という言葉も新しかった。昭和のホームドラマでは、男女は結婚を前提としているのだ。それはそうだろう。脚本家が価値観を形作った背景の時代が違う。向田邦子も橋田壽賀子も戦前戦中に青春を過ごした人たちである。私が借りたビデオは、北川悦吏子さん脚本のドラマが多かった。戦後の復興の象徴となった東京オリンピックもほとんど覚えていない世代の人だ。木村拓哉と山口智子の「ロングバケーション」は面白かった。あのドラマを観た時には、へえ、日本も変わったんだなあと思った。何というか、若い人たちが自由で、家の縛りがないというか。言ってみれば、個人と個人の人間関係。日本にも、集団を離れた個人のドラマが登場したのだと、ある意味感慨深かった。他にも色々なドラマがあったのだろうが、貸してもらったドラマからの感想である。鎌田敏夫という脚本家のドラマもあった。山口智子主演の「29歳のクリスマス」。1994年のドラマで、これも友情と恋の話。調べてみたら70年代に「サインはV」など青春ものをたくさん書いた人。80年代には、一躍「不倫」という言葉を有名にした「金曜日の妻たちへ」を書いている。1937年生まれだから、たぶん時代の変化と共に歩んで書き続けてきたのだろう。

今はどんなドラマが主流なのだろうか。NHKの朝ドラと大河ドラマは息が長い。時代は変われど、ずっと続いていくものは伝統になる。これからも面白い良い作品を世に出していってほしい。ただ、NHKはオンデマンドでも海外では観られないのが残念だ。その辺もスイステレビのように変えてほしいものである。