今週のお題「準備していること」

活動に携わっている文化交流団体では、年に2回映画会をしている。この春は、宮崎駿監督の「風の谷のナウシカ」を上映する予定で準備を進めている。1984年の作品で、もうかれこれ40年以上前のアニメ映画ではあるけれど、テーマは少しも色褪せていない。いや、かえって今こそ、皆で一緒に観て考えてみたい作品である。「風の谷のナウシカ」は、こちらでも過去に何回も上映されているし、ビデオも出回っている。特にアニメファンには親しみがあるわけだが、この映画は、アニメの枠を超えて、ファンでない人たちにも幅広く観てもらいたい作品だ。この作品が扱っているテーマは、戦争と環境破壊、人類の生き方への問いかけである。去年の12月には、原作漫画のドイツ語新版が出たということが、ラジオで報道されていた。古い作品だが、まさに現代的なテーマであるとの論評だった。宮崎駿は、アニメ界の巨匠として世界的に知られている。その絵と表現の腕はもちろんだが、彼の作品には、それ以上のもの、常に人類存続への問いかけと深い思索がある、と私は思う。
「風の谷のナウシカ」の舞台は、『火の七日間』と呼ばれる最終戦争1000年後の地球である。巨神兵なる兵器が世界を焼き尽くし文明を滅ぼした。たぶん、核と超近代兵器を使った壮絶な戦争だったのだろう。地球は有毒物質に汚染され、生命環境は徹底的に破壊された。そして、長い年月をかけて、今は腐海と呼ばれる巨大菌類の森が広がっている。腐海の菌類は、地上の有毒物質を自分の中に取り込み、結果的には有毒物質を浄化している。人類は汚染の少ない地域に集落というか国を作って暮らしていて、ナウシカは風の谷にある小さな王国のプリンセスである。勇敢で賢い上に心やさしく、民の敬愛を一身に集めている姫君だ。この風の谷は、風の流れと地形によって守られ、人々は農業中心の中世的な生活をしている。だが、谷を一歩出れば、毒を自身に濃縮している腐海が発する障気から身を守るために、防毒マスクを付けなければならない。小さな集落の人々は、長老のような王のもとで平和に暮らしていた。そして、ナウシカは王の一人娘で、正統な継承者として、病弱な父王に代わって実質的なリーダーの役割を果たしている。文武両道に優れ、腐海の研究にも精を出す知性的な若い姫だ。
風の谷だけでなく、他にも生き残った人類が、住める場所に集団で暮らしているのだが、戦争で人類が滅びたというのに、いまだに争いは続いていて、大国は小国を攻めて自分のものにしようとしている。やがて、トルメキアという大国が風の谷を争いに巻き込んでいく。トルメキアのプリンセスは、冷徹で野心的な軍事指導者で戦争推進者、ナウシカとは正反対の属性を持っている。物語には、もう一つの国も絡んできて話は展開していく。ここでは詳細には触れないが、ラストシーンは圧巻である。久石譲の美しい音楽と相まって、感動的で壮大な一大叙事詩だ。
もし、今の世界がこのまま行けば、この話のようにもなりかねない。人類が戦争の循環からどう抜け出していくのか。この作品にも描かれているように、あんなに荒れ果てた世界でも、トルメキアのように、自国だけの利益を追求して自分たちの覇権を拡大しようとする国がある。共に知恵を絞って生きていこうという姿勢とは反対だ。一方、風の谷のナウシカは、全く違う発想を持っている。何よりも、この賢く勇敢な姫には、生きとし生けるもの全てを、植物や動物や虫も含めて、大切に思う慈しみの心がある。これが平和と共生への鍵となるのだ。2時間かけて話が展開していくが、最後の場面は示唆的である。
さて、もう一度この作品をたくさんの人に観ていただきたい。特に、ストリーミングに慣れている若い人たちにも映画館に足を運んでもらって、上映後のアペロで参加者同士でお喋りする機会になればいい。映画を選んで上映権と映画館を確保した後は、今度は集客のための宣伝作業がある。何にせよ、一つの催し物が実現するまでには、毎回いろいろと準備があるものだ。





