
ノルウェーの旅をまとめる暇なく、ドイツに行って来た。こちらは、旅行ではなくて、ダンスセミナーへの参加。今日は、そこで体験したり思ったりしたことなどを少し書いてみたい。
スイス人の友だちに誘われてダンスのセミナーに参加してきた。彼女は長年、民族舞踊をベースとした瞑想的なサークルダンスを主宰している。そして、時々、彼女の先生がドイツで行うダンスセミナーにも参加している。場所は、カールスルーエ郊外の宿泊施設のあるセミナー会場である。カールスルーエは、ドイツとの国境の街バーゼルからは2時間弱の近さだ。西欧の真ん中にあるスイスは、近隣諸国へのアクセスがいい。だから、友だちは年に2、3回は、ブラッシュアップのためにそちらに行っているらしい。彼女は、もともとは今の先生の母親が広めたサークルダンスを習ったのだそうだ。たぶん1970年代にドイツで生まれた「踊りの瞑想」をルーツとしているダンスだと思う。その後、その娘さんが独立して新しいコンセプトのサークルダンスを始めて、今はその先生に習っている。今回のセミナーは、ポルトガルのファド音楽からインスピレーションを得て、彼女の先生が振り付けしたダンスだった。私は、ジャズダンスや社交ダンスが好きだし、大昔の話になるが、フラメンコダンスもちょっと齧ったことがある。だが、ファドはよく聴くけれど、それに合わせて踊るというのは初めてだった。ファドとは、ポルトガル語で宿命という意味だそうだ。アマリア・ロドリゲスが世界的にファドを広めたと言われる。今は、マリーザという女性歌手が、人気の歌い手の一人である。ファドはまたギターの演奏がいい。歌い手の情感を時に激しく、時に切なく盛り上げる。今回のセミナーの選曲がまた素晴らしかった。男手を取られて残された女性たちが歌う生活の歌とか、故郷を懐かしむ曲とかもあって、哀切なメロディーが心に染みる。
ドイツやオーストリア、スイスから来ているセミナーの参加者は、長年サークルダンスをやっている人が大半で、中には、自分でグループを持って教えている人たちもいた。サークルダンスは、たいていステップにパターンがあるので、覚えてしまえば難しくはない。ただ、手を繋いで輪になって踊るので、慣れは必要である。人と人との一体感を育み、平和や調和を体験することも趣旨のようだが、人によって手指から伝わってくる感覚というか、気の流れが違うのが面白い。また、5日間も一緒にいると、その人の個性も段々とわかってくる。
そう、合宿だから、朝から晩まで仲間たちと一緒に過ごすことになる。8時から朝食、そして9時過ぎから午前のダンスが始まって、休憩を挟んで12時少し前まで踊る。昼食を取ってから2時間ほど昼休みで、その後少し曲目やステップについての講義があって、また18時の夕食まで踊る。そして、夕食後19時半から21時までまたダンスの時間だ。その度に、グループの仲間たちと顔を合わせるわけだ。夏休みの集中ダンスコースは、ウェブサイトを探したらいくつかあった。ただ、ほとんどがホリデーを兼ねたコースで、たとえば、地中海の島などで、午前中はダンスをして、午後は自由時間とかハイキングのプログラムだったり。私は、インテンシブにダンスをするのが目的だったので、「こういうのがあるわよ」と、友だちが勧めてくれたのだ。
1日に3回食事を共にしたり、休憩時にコーヒーをしたりすれば、いろいろな話にもなる。それも興味深かった。たまたま、政治の話にもなった。会場の近くに美味しいベーカリーがあって、買いに行く人もいた。それがきっかけで、子供の頃に家がベーカリーをやっていた人が、思い出話を始めた。その人のお祖父さんはドイツ軍に召集されて、お祖母さんは家族を守って大変だったそうだ。秘密裏にユダヤ人を庇ったこともあったという。お祖父さんは、対ソ前線に送られたところだったが、戦闘で大きな戦傷を負って前線から戻された。対ソ連戦は過酷を極めたから、ある意味不幸中の幸いだった。ドイツでは、今も学校の歴史の時間にナチスの所業について教えられ、当時の反省が続いているそうだ。彼女も祖父母や両親から戦争の話を聞いたという。一方で、別の人もドイツ人だったが、戦時にもう大人だった彼女の両親は、戦争のことは一切語らなかったと言った。私は、近年台頭してきた極右政党のAfDが国民の間でどう受け止められているか聞いてみた。この党は、主張に矛盾を抱えている。たとえば、党の公式見解ではナチスを否定しているが、党内にはその行為を矮小化しようとする政治家もいる。また、伝統的家族観を語り同性愛に批判的だが、共同党首のアリス・ヴァイデル氏には同性のパートナーがいて、一緒に子供を育てているという。そのことについては、党内では誰も表立って言及しないのだそうだ。この人の伴侶はスイス国籍を持つ移民で、ヴァイデル氏はスイスに住居を構えているので、それがスイスでは話題になっている。主張に矛盾を抱えている党首だが、話してくれた人によれば、この党の支持拡大の背景には、民衆のドイツ社会民主党への失望があるのそうだ。自分たちが見捨てられたような思いを持った労働者たちが、AfDに乗り換えたことも軽視できないということだった。アメリカで民主党離れが起きてトランプが勝ったのにも、似たような流れがあったと思う。日本の政治のことを聞かれたので、ちょうど国会で俎上に載っている皇室典範の問題について話した。初の女性首相が、よりによって女性天皇を否定する皇室典範改定の旗振り役をしていると言ったら、皆一様に驚いていた。女性なのに、今の時代に男尊女卑の側に立つトップが奇異に映ったことだろう。
最後に、先生がお茶の時間に笑いながら言ったことが頭に残っている。彼女は、子供の頃から舞踊と共に歩んできて、外国にも呼ばれてサークルダンスのセミナーをしている。このダンスを通して、大きく言えば、世界中の人々が他者との間に平和と調和を育んでいけたらという理想があるらしい。大きくなった娘に「まあ、夢でも見てなさいよ」と言われたと、大声で笑っていた。娘さんは、愛情を込めながらも、このシビアな世界で夢を見ているような母親を揶揄ったのだろうが、人が理想を持つことをやめたら、世界はとっても乾いて住みにくいものになってしまうだろうな、と思ったことである。





