スイス山里COSMOSNOMADO

アルプスの山を眺め空を見上げながら心に映る風景を綴ります

「老前整理」真っ最中

「老前整理実践ノート」という本がある。くらしかる代表・老前整理コンサルタントの坂岡洋子さんが書いた本だ。この本を買ったのは自分が50代の時で、まだ実感としては切実さはなかった。でも、本屋さんで手に取って興味を引かれたのだから、色々整理しなくちゃとは思っていたはずだ。ちょうど少し前に、こんまりさんの「ときめき整理術」?が話題になっていた頃だったか。それから「断捨離」という言葉も広まっていた。

ただ、色々捨てなくちゃとは思っていたけれど、私の場合は「ときめき」メソッドと「断捨離」には、必ずしもピンとこないものがあった。これらは、自分探し的な要素があるようで、人生の真っ只中の人たちには向いているかもしれない。けれど、もう自分探しの時期も過ぎ、そろそろ人生の秋も深まってきた人間には、また別のアプローチが向いているかなと思う。ま、これは私個人についてだけれど。まず、自分はあまり物を買わない人間で、ウインドウショッピングはしないし、通販のカタログにも興味がない。洋服も持ち物も、必要がある時のみ探しにいくタイプ。もう何十年も同じ家具を使い続けているし、食器も増えていない。だが、しかしである。問題は本や写真や、仕事や文化関係の資料や書類というか紙類、そして、趣味や勉強関係のもの。それと、誰かからいただいたもの。思い出が捨てられないタイプだ。包み紙もすぐには捨てられない。買った時やいただいた時には、物はたいてい包まれている。その時だけで捨てるのは忍びなくて、つい取っておく。それに、物が溢れている時代、などと言われて久しいが、私はそうでない時代が来るという予感がいつもあった。歴史をたどれば、戦時中や戦後は物が乏しかったし、災害があって物流が途絶えれば物はなくなる。最近では、コロナの時がそうだった。今も、気候変動やウクライナの戦争がどうなっていくのかにもよる。

坂岡さんは、整理を三つに分けている。老前整理、生前整理、遺品整理ということだ。そして、老前整理は今の自分のため、気持ちや暮らしをスッキリさせることとしている。坂岡さんは次のように書いている。「老前整理には、親族が遺品の山で途方に暮れないようにという思いやりも含まれます。年齢がいくつからという線引きはありませんし、ある時点で、それまでの人生を整理し、身軽になろうという意味が込められます。いわば、未来志向の片付けなのです。」帯には、「⚪︎気力・体力・判断力が充実しているうちにする ⚪︎自分史年表を作って過去と向きあう ⚪︎思い出は写真にして整理する ⚪︎老前整理は、自分との対話の時間 ⚪︎5W1Hでモノと自分との関係を明確にする」「片付けば、意識が変わり、行動が変わり、人生が変わる!」と書いてある。たしかにそうだろう。

片付けには、気力と体力がいる。たとえば、上の棚に載せている物を下ろす作業は体力があるうちにやっておかないと難しい。物を持って椅子などに上り下りするのは、何も持たないでするのに比べると筋力が要るのだ。それに、何を残し何を捨てるかの判断というのは、これまた難しい。そして、継続して作業するには気力が要る。過去と向き合う作業は、精神的に容易いことではない。自分への肯定感が高い人は辛くもないだろうけど。老前整理は、自分との対話の時間というのは納得する。紙類やファイルを整理しながら、思えば報酬の有無に関わらず、いろいろ人と関わっていろんなことをやってきたのだなあ、という感慨も湧く。あれっ、この人?そう言えば、一時はけっこう関わって時間を割いたりしたけれど、今はどうしているのだろう。このプロジェクトには、損得抜きで人生の時間を費やしたなあとか。その逆もしかりで、自分もこうして今まで生きてきた裏には、たくさんの人のお陰があるのだろうと思う。自分史年表というのは、いい案かもしれない。私はずっと出来事の日誌と、思うことの書き付けノートを続けているので、それをまとめてみるか。しかし、これも気力と時間の要ることだ。有名人などは、よく自伝を出しているけれど、無名の個人の場合は、自分の人生のプライベートな振り返りにしかならないにしても。と思ってよく読んでみると、この本が推奨しているのは、純粋に時系列の年表だけだった。親切にも、巻末に1940年からの年表があって、その年の社会の大きな出来事が書いてある。自分も、隣の欄にその年の主な出来事を記入するようになっている。こうして、ざっと振り返りながら、残しておきたい物と捨てる物を仕分けしていくわけだ。

「老前整理」プラス、未来の「遺品整理」、つまり自分がもうこの世にいないと思って、その自分の遺品を整理するつもりになるのはどうか。そうすると、ほとんどは必要ないものになってしまうかもしれない。ただし、まだ生きているので、現在進行形で使う物は取り分けておく。そして、ほんの少しの思い出の品も。逆転の発想というか何というか。うまくできるかはわからないが。

「あきらめる」という言葉がある。私は「明らめて、諦める。明らめて、諦めない」でやっていこうと思う。この言葉については、また後日深めて書いてみたい。