スイス山里COSMOSNOMADO

アルプスの山を眺め空を見上げながら心に映る風景を綴ります

映画「サタデーナイトフィーバー」

なんと、封切りから45年経ってから「サタデーナイトフィーバー」を観た。もちろん、この映画が大ヒットしたことは知っているし、日本のディスコブームの火付け役となったことも知っている。だが、観よう観ようと思いながらも、その機会を逃していた。そして、ついに一昨日の夜、視聴!

1977年の作品で、1954年2月生まれのジョン・トラボルタは、撮影時は22歳くらいだったろう。なかなか可愛らしかった。役の上では、もうすぐ20歳の大人になりかける微妙な年頃を好演していた。なんといっても、見どころは彼のダンスシーンである。歩き方も含めて身のこなしの素晴らしいダンサーだ。話の内容如何に関わらず、彼が踊るところを楽しむだけでも、この映画は観る価値がある。

ストーリーは、かいつまんで言えばこうだ。トラボルタ演じるトニーは、ブルックリンに両親と住みながら塗料店で働いている。お客さんに親切で真面目に働く彼は、店でも評判がいい。家では父親が失業していて、食事時には険悪な空気が漂う。トニーは特に人生の目標もないし、親から期待もされていない。両親の希望の星は、離れた場所で神父をしている兄だけである。彼の単調な生活の唯一のハイライトは、毎週土曜日に通うディスコだ。友人たちと連んで出かけるそのクラブでは、彼は誰もが認めるダンスの王者で人気者だ。女の子たちも寄ってくる。だが、彼にとって一番大事なのは踊ることそのもの。デートだけが目当ての女たちには目もくれない。そんなある日、フロアで踊る見慣れない女性が彼の目に留まる。踊りが抜群なのだ。彼女に惹かれたトニーは、このディスコテークで行われるコンテストのパートナーになってくれるよう頼む。ステファニーという名の年上の彼女は、初めは上から目線だったが、ダンスパートナーの関係のみと念を押して承諾する。性的な関係が目的の者たちも多いからだ。彼女はブルックリンに住みながら、マンハッタンにある会社で広報担当として働いている。有名なアーティストたちとも交流があるらしい。私はブルックリンのあなたたちとは違うのよ、とこれ見よがしにトニーにひけらかすが、映画では、それが本当なのかホラなのかは示されない。だが、とにかくトニーが連んでいる仲間たちとは違う世界で、人生の夢を持って生きていることは確かだ。川ひとつ隔てて、ブルックリンとマンハッタンでは住人たちが全く違う生活をしているらしい。ただその日暮らしの下層の労働者たちが住む街と、スノッブでも成功を夢みる者たちが暮らす街の違い。今はどうか知らないが、映画を見る限り当時はそんな感じだったようだ。コンテストに向けて練習するうちに、いつしか二人の間には友情が育っていく。トニーの側からは恋心だが、ステファニーの本当の気持ちは最後まで明かされない。コンテストの日がやってきた。二人は優勝するが、トニーにはそれが納得できない。自分達より上手いプエルトリコ人ペアが2番になったのだ。こんなのは本当の競技じゃない、自分がこのディスコの常連だからの馴れ合いだと言って、トニーは優勝の賞金を彼らに渡して会場を飛び出す。自暴自棄になった彼は、追いかけてきたステファニーを車の中で押し倒そうとするが、我に返って謝る。彼女とは気まずい思いで別れる。そして、連んでいる仲間たちと5人でマンハッタン橋?まで行くが、その車中で仲間の2人はトニーに言い寄っていたアネットと乱行に及ぶ。車を降りて彼らは橋の欄干の上でバカふざけをする。落ちれば即死だ。トニーと後の2人は危ない一歩手前でやめる正気は保っていたが、ガールフレンドを妊娠させて悩みに悩んでいた3人目の仲間は、やけバチになった挙句落ちてしまう。警察が来て彼らは解放されるが、トニーはもう仲間たちの車には戻らずに、夜通し歩いてステファニーのアパートを朝早く訪ねる。彼は、今までの生活との訣別を告げ、夢を実現するために彼女にいろいろ教えてほしい、友達になってほしいと頼む。ステファニーは、男と女の間に友情は成立すると本気で思うの?と半ば茶化しながら聞くが、友達になりましょう、と言って彼の頬にキスするところで映画は終わる。

「サタデーナイトフィーバー」は、トラボルタの出世作となった作品である。この映画では、彼の持つ魅力を描き切った。抜群のダンスの上手さはもちろんのこと、トニーの持つ宝石の原石のような可能性、内心の純粋さをよく表現していた。目の演技が非常にいい。また、相手役の女優さんのキャスティングも良かったと思う。オリビア・ニュートン・ジョンのような魅力はなかったから、たぶんその後はあまり活躍しなかったかもしれないが、この役には合っていたと思う。彼女の外見があまりに女性として魅力的というか、セクシーだと、トニーがまず彼女の踊りっぷりに瞠目して惹かれたことが、映像として表現できないから。19歳のトニーにとっては、踊ることが人生の意味なのだ。歳上の地味目な女優さんでこそ、たぶん出身はトニーと変わらないが、結果的には、夢を持って社会の階段を上っていく姿勢でトニーを啓発する役を演じられると思うからだ。

ビージーズの音楽は大ヒットし、あの曲に載せたトラボルタのディスコダンスの振りは一世を風靡した。当時は、いわゆるマジメだった私は、ディスコには2、3回くらいしか行ったことはなかったが、ダンスは大好きだった。そう言えば、ダンスのコースに通っていたことを思い出した。それも、ディスコダンス。だから、あの振りは知っている。今回遅ればせながら観て、トニーがステファニーに言った言葉が印象的だった。たしか、内容的には「今の自分はダンスへの情熱でいっぱいだが、年を取ってからもそれを持ち続けていられるかはわからない。だから今の自分の可能性を試してみたい」というようなものだったと思う。自分を振り返ってみる。踊ることは今も好きだ。昔は、情熱がほとばしり音楽に合わせて自然に身体が動き出したものだが、今は少し違う。やはり、身体は徐々に老いていくものだと実感している。それに合わせて情熱の質も変わっていく。肉体表現には旬というものがあるのだと思うし、だからこそ、若い人には適切な時期に思う存分に可能性を伸ばしてほしい。トニーは、たぶんあれから努力を重ねて、有名なダンサーとして活躍したのではないか。企業の広報の仕事で、有名なアーティストとの繋がりがあるというステファニーとの友情も示唆的だ。