スイス山里COSMOSNOMADO

アルプスの山を眺め空を見上げながら心に映る風景を綴ります

久しぶりの桜に思うこと

今週のお題「お花見」

日本で桜を見るのは久しぶりだった。今まで帰省はたいてい秋だったから。ところが、用事ができて急にまた日本へ行くことになった。時期的に桜は期待していなかったが、今年の東京は例年より開花が早く、思いがけず満開の桜を見て戻ってくることができた。

やはり、桜は美しい。命短し恋せよ乙女、の歌ではないが、ソメイヨシノの盛りの儚さがその美しさを一層際立たせるのかもしれない。一瞬の輝きを惜しむように、人々は桜の花を愛でる。今回改めて、東京のあちこちに桜の木が植えられていることに驚く。特に花見をしたわけではないが、行く先々で花を見ることができた。大宮に行く用事があって上野を通ったので、途中下車して上野公園を歩いてみた。満開にはまだ早かったが、すでにたくさんの人が出ていて、桜の木の下で宴会を開いていた。この数年は、コロナで花見が自粛だったそうで、久しぶりの宴に人々の喜びが感じられた。楽しそうな人たちを見ていると、何だか嬉しくなってくる。ああ、みんな今を生きているんだなあと思って。千鳥ヶ淵の桜を見ることもできた。宿泊先が近かったので、早朝の皇居一周ジョギングをしながら、人出の前に楽しんだ。

日本もずいぶん変わったが、こちらに長年暮らしていると、やはり日本人は優しいなあと思う。インバウンドということで、コロナ規制が軽減された日本に再び外国人観光客の波が押し寄せて来ている。安い国ニッポンへ。横柄な外国人も見かける。羽田空港はごった返していて、パンクするのじゃないかと心配になったくらいだ。しかし、空港の人やサービスの人たちは、こちらでは考えられないほど親切丁寧だ。こちらでは、サービス精神と卑屈性が混同されているのではないかと思うほど、サービス業なのにサービスしたくない雰囲気が漂っている人をけっこう見かける。つまり誇りの勘違いだ。ところが、日本では喜んでもらうことがサービス業の誇りとしてあるような気がする。もちろん、深く考えれば色々な問題もあるのだろうが、一口で言えば親切なのだ。その親切心が、安いだけでやってくる外国人観光客に無にされないことを願う。

桜も儚いが、人の一生も長いスパンで見れば儚い。今回の帰省では、人の生き死にに思いを致す機会が多かった。有名無名を問わず、最近は知っている人の訃報に触れることが多い。坂本龍一さんが亡くなった。彼は、世界的なミュージシャンとしてニューヨークに居を構えていたと思う。しかし、最期は日本で亡くなった。いつのインタビューだったかはわからないが、どこに骨を埋めますかと聞かれて、もちろん日本ですと答えていた。やはり、故郷は日本だと。どこで死を迎えるか、これは我々のような在留邦人には、これから向き合っていくことになる問題である。どんなに異国に融合していても、やはり生まれ育った国の言葉や文化の懐は深く懐かしい。